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アコーデオンの岸辺にて

先週末は、久しぶりにアコーデオン漬けの2日間を過ごした。
「Des Rives d'Accordéon(アコーデオンの岸辺)」というフェスティバルがパリで開催されたのだ。
パリに住み始めてもうすぐ4年。でも、意外なことに、こんな大きなアコーデオンのイベントが開催されるのは初めてのこと。
会場となったラ・ヴィレットは、近代的なコンサートホールや美術館が点在するアミューズメントパーク。その昔ここは、家畜の屠殺場だったらしいが、今はそんな生々しい面影は跡形もなく、緑あふれる憩いの公園になっている。
開催前日、このイベントの初日にアマチュアの演奏コーナーがあると友達に聞いて、担当者に参加したい旨の電話をかける。インターネットでの申込みはとっくに終わっているから、駄目かなあ。いやいや、でも、ここはフランスだから。。。すると拍子抜けするくらいあっさり「全く問題ありません」と返事がかえってきた。
さすがフランス人は企画・段取りがアバウトでいいなあ。そんなわけで、急遽、イベント関係者として参加させてもらえることになった。

アコーデオンの岸辺にて_c0085370_1122399.jpg当日集まったアマチュア・アコーデオニストは約20名。主催者側のコンセプトは、野外のコンサート会場へ続く道の両側にアコーデオニストが等間隔で座り、コンサート前の賑やかしとして30分間思い思いに演奏するというもの。そしてコンサート開始5分前には会場から一番遠くの演奏者から順々に立ち上がって、演奏しながらお客様を誘導していく。1人、2人とアコーデオニストの流れが大きな川になっていき、最後は全員で演奏なんて、グッド・アイデア。でも、さすがはフランス。アイデアはいいけど、詰めが甘い。最後は一人一人勝手に演奏して、何となくばらばらと終了。私だったら、最後はお馴染みの曲を全員で合奏して、ラストを華々しく盛り上げて・・・なんて発想してしまいそうだけど、はりきり過ぎず、肩の力が抜けたフランスの企画センス。みんな満足そうな顔をしているし、このくらいでいいのかも。

そんな道端での演奏中に、フェスティバルの取材に来ていた一人のムッシューと仲良しになった。彼は、フランス南部の町、ピレネーで、「Accordéon sans frontières(国境なきアコーデオン)」というラジオ番組を持つパーソナリティ、そして自らもアコーデオン奏者だという。記念すべき500回目の放送となる9月9日は、フランス・アコーデオン界の女王イヴェット・オルネがゲスト。往年のファンにとっては聞き逃せない放送となるに違いない。
2日間のフェスティバルで、さまざまなジャンルから呼び集められたアコーデオニスト達。
なかでもとりわけ私の心を惹きつけたのは、トゥールーズから来たアコーデオン3人組。彼らはスペインや東欧系のさまざまな伝統音楽をミックスして濃厚でオリジナルなサウンドを作っていた。身体の中を龍が駆け抜けていくような力強い音のうねり。アコーデオンだけで結成されたグループはあまり聞かない私も、彼らの音楽にはすっかり魅了。
そして、チベット人の若手女性アコーデオニストの演奏が聴けたのも貴重な体験。祖国の音楽を独特のリズム感で表現し、小さな身体でアコーデオンを自在に操る。

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(写真左:人懐っこい笑顔のダニエルとチベットのアコーデオニストMan Xinと)
(写真右:衣装をほめたら、演奏より衣装の方が良かったって言われるのがコワイ~だって)

そして、2日間のフェスティバルのラストを飾るのは、bal musette(バル・ミュゼット)。バル・ミュゼットとは1900年代初頭にパリの下町で大流行したダンス音楽のこと。パリに労働を求めてやって来たフランスの田舎のオーヴェルニュ人とイタリア移民が夜な夜なダンス・パーティーを開いた事から生まれた音楽である。ディアトニック・アコーデオンのダニエル・ドネショー率いるこのバンドは、当時使われた楽器や衣装のスタイルにこだわるのはもちろん、客の乗せ方も当時のパリジャン訛りの話し方で雰囲気を盛り上げる。現在、この古き良き時代を偲ばせる演奏は彼ら以外に聴く事ができない、という貴重なグループだ。
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(↑友達のジャン・イヴとジャン・クロードもbalに参加。彼らとは、2年前、日本でコンサートツアーを企画して東京と新潟を一緒に回った)

どういうわけか私はこのダンス音楽にやたら弱い。特にこのバル・ミュゼットに合わせて楽しそうに踊るダンサーの顔を見るとどうにも涙腺がゆるんでしまう。以前、一度、自分が演奏している最中に、居合わせたみんなが突然手をつないで踊り出す幸せな瞬間を体験したことがある。透明な水の中にインクをほんの一滴ポトンとたらした時のような、一瞬で空気の色が変わる音の魔法。私はこの時、初めて、音楽を演奏する真の喜びを味わったように思う。
演奏が進むにつれて、ダンスの輪は少しずつ広がっていく。ダンサー達は必ずしも男女ペアというわけではない。スペインの伝統音楽パソ・ドブレがかかると、もうたまらないとばかりに、手を取り合いギャロップを始める、高校生くらいの若い男の子2人組。青春時代にダンスホールに通ったに違いない白髪の上品なマダムが2人、頬を赤く染めながら踊りの輪に加わる。赤ちゃんを腕にくるくる踊る幸せそうな若い夫婦。そして、淡々と音楽を奏でるミュージシャン達もその楽しそうな様子をちらっと見ては、時々満足げに顔をほころばせる。
演奏がすべて終わって鳴り止まない拍手の音を聞きながら、ふと空を見上げると頭上には果てしなく濃紺の空。子供の頃、夏休み最後の1日が終わろうとする瞬間、急にその事実を悟って胸がきゅんとなった。その甘やかでせつない記憶がふいに押し寄せた。
今年の夏よ、さようなら。
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by DegorgeRie | 2006-09-01 08:21

パリのアコーディオニスト Rie のオフィシャルブログ


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