モンマルトル・ランデヴー
2021年 04月 03日

モンマルトルの麓、サン・ピエール広場にあるものは18世紀ベネチア様式の2階建てで、幌付きの馬車や木馬には優雅な装飾が施されている。人で言えば間違いなく100歳を超える年齢。博物館にあってもおかしくないような佇まいなのに、今でもパリの子ども達を現役で楽しませていることに小さな感動を覚える。
この広場から眺めるサクレクール寺院は、モンマルトルで一番フォトジェニックな場所ではないかとひそかに思っている。
そびえ立つサクレ・クール寺院を映しながら右側からゆっくりとカメラがパンして、くるくる回る回転木馬を映す。手前には広場に置かれた公衆電話。電話の鳴る音がレトロなワルツに重なる。公衆電話の近くにいた女性が電話を取り、ニノに電話を取り次ぐ。電話をかけているのはアメリ。ニノが無くした証明写真コレクションの写真集を渡すためにシャイなアメリが考えついたスリリングな探偵ごっこなのだ。


アメリで好きなシーンはたくさんあるが、中でもとりわけ心がはやるシーンがある。
モンマルトルの雑踏の中、道を渡るタイミングがわからず困っている盲目のおじいさんを見つけるアメリ。とっさにおじいさんの肘を取り、颯爽と誘導しながら、目の前に見える風景のすべてをありったけの想像力で説明しながら駅まで送り届ける。駅に着いたおじいさんはアメリの音声道案内によって昇天さながらの心持ちになる。
映画音楽を手掛けたヤン・ティルセンのアコーディオン曲がここでとても効果的に使われていると思う。
アメリとおじいさんが早足で歩く疾走感を表現する『La Noyée』という曲。観客も、あたかも自分がアメリに誘導されている気分になり、そして駅に着くと同時に音楽もぴたりと止む。

裏通りの坂道や階段を歩いていると、ふっと異世界へ紛れ込んだような気分になる。
あの坂の向こうには見知らぬ風景が待っているかもしれないと思って、どんどん奥へ奥へと進みたくなる。
もしかしたらそこには運命の人が待っているかもしれない。
ワクワクする気持ちとドキドキする気持ちが折り重なる。
地図も持たず、ただ心惹かれるほうへ足を向けていくのが、旅の街歩きの最もロマンチックな楽しみ方かもしれない。
by DegorgeRie
| 2021-04-03 03:42
| パリの風景と音楽




