冬眠します。
2006年 12月 29日
10月中旬から11月下旬にかけて日本に里帰りしていました。
毎回里帰りのたびに楽しみなのは、友人たちとの再会。
そんな中、一年ぶりに再会した皮膚科の先生。
先生の名前は宮元先生。目がくりくりっとして可愛らしく、いつ会ってもエネルギッシュなオーラを発している女性の先生です。先生を動物に例えるとしたらペンギン。診察券にもそのトレードパークのペンギンのイラストが描かれています。
20代前半の頃、私は顔と首を中心にひどいアトピーに見舞われるようになって、さまざまな皮膚科をジプシーのように渡り歩いていたのですが、一向に良くならず、ある日母の知り合いに紹介されたのが宮元先生でした。
一時はステロイド地獄に陥って顔がひどくただれ、家族と顔を合わせることさえ精神的につらい状態だったのですが、その先生の配合してくれる保湿クリームのおかげで、今ではほとんど普通の人と変わりなく生活できるようになりました。
自分にとって恩人とも言えるその先生のクリニックに一年ぶりに訪れ、処方箋を書いてもらいながら、「そういえば先生、一時期診療をお休みしていたと母から聞いたんですけど、病気でもされていたんですか?」と、ふと質問したことから思いがけない話を聞くことになりました。
「そうなの~。実はね、2年くらい前に、急に立て続けに病気になっちゃったの。胃潰瘍から始まって、十二指腸潰瘍になって、不整脈が出ちゃってね、それがほんの1年間の間に起こったの。不整脈なんかね、1日のうちに60回以上出たら異状っていうところを3,000回とか出ちゃって。自分でドクンっていうのがわかるのね。不整脈って、すっごく気持ち悪いの。それでね、ついにドクターストップがかかっちゃったのよ~。おかしいでしょ。医者なのにドクターストップなんて」
ハハハ・・・と、まるで他人事のようにケロッと明るく話している。
「でもね、なんか、私、責任感が強くって、自分が休んじゃったら来てくれてる患者さん達はどうなっちゃうんだろうって思ったら、休めなくて、仕事を続けていたの。でもそんな中、大学の時の同期の友人がね、突然死しちゃったのよ。原因はわからなかったのだけど、私はきっと過労じゃないかと思ってね。私もこのままいったら突然死するかも、って思ったの」
先生の話にすっかり引き込まれている私の横では、オクターヴが疲れと眠たさとで、ベビーカーの中で身体をくねらせながらぐずっている。でも、話の続きがあまりにも気になって、腰が上がらない。
「それでね、私、自分の患者さん10人に相談することにしたの。お医者さんなのに患者さんに相談なんてまたまた笑っちゃうでしょ?でもね、その相談する10人は、全員子供を持つお母さんを選んだの。それで、私は今、こうこうこういう状態なんですけど、休んでもいいでしょうか?ってね、聞いたのよ」
みんな休めって言ったでしょう?
「そうなの。10人中10人がみんな、先生、どうか休んで下さい、って言ったの。それでね、そのうちの一人はね、こんなことを言ってくれたの。それはね、先生、神様から休みなさい、って言われてるんですよ。だから、今は気にしないで休んで下さい。そのかわり、元気になったらまた始めてくれたらいいんですよってね。それを聞いてね、なんだか安心して、休もうって思ったの。それに、よく考えたら、自分の娘達のためにも突然死なんてしたら困るでしょ」
そうですよ。先生、フランスなんかね、お医者さんだって、バカンスに行くからって言って堂々と1ヶ月以上仕事休んじゃうんですよ。当たり前の権利なんですよ。
「あっ!やった!まただ」
えっ、先生、またって何です? ふと先生の視線を追ってオクターヴを見ると、さっきまであんなにぐずっていたのに、いつの間にかベビーカーの中ですやすやと眠り込んでいる。
「なんかね、患者さんが赤ちゃん連れてくるとね、泣いたりぐずったりしていても、大抵、私が話しているうちにみんな眠っちゃうのよね~。催眠術みたいでしょ」
全くとぎれることのない先生の流暢なおしゃべりは確かに催眠効果を発してるみたい。オクターヴが静かになったところで、また落ち着いて話を続ける私達。
「そう、それでね、休むことに決めたのが11月だったからね、ふと思いついて、紙に『冬眠します』って書いて、ペンギンが寝ている絵を添えて、クリニックの表に貼り紙したの。そんなふざけた医者いないよね。そうしたら、インターネットで、誰かに、あそこの医者は冬眠しますって貼り紙をしてるなんて、書かれちゃったみたい。ウフフ。。。それで、ある時なんか、クリニックにやって来た男性がその貼り紙を見つけて、『あれっ、冬眠しますってか。。。でも、それならきっと春頃には目が覚めるだろう』ってつぶやいて、納得して帰っていくのが聞こえて、おかしくってね」
その後、先生は、本当なら身体が全快するのに1年くらい休まなきゃいけないところを、たった1ヶ月休んだだけで回復してしまい、その後の3ヶ月で、今までよりもう少し手狭なビルを見つけて引っ越して、内装工事をして、結局はたった4ヶ月の休業だけで、本当に3月に再開業してしまったのです。
そして現在は、以前よりも診療時間を少なくして、無理のないペースで仕事ができているそうです。もっとも働き者で優しい先生は、診療日以外に、患者さんを見てあげる時もあるそうですが、それでも十分な休息がとれているそうで、全てのいきさつを話し終わった先生の顔をあらためて見ると、本当にイキイキとして見えました。
診察に訪れたつもりが、思いがけず、20分もこんないいお話を聞けて、しかも落語みたいなオチまでついて、診察室を出る時は、まるで、映画を1本見た後のようでした。
私の周りには、身体に危険信号が出ても、大丈夫大丈夫って自分を励ましながら仕事をしている頑張り屋のお友達がたくさんいます。私も20代前半の時に、ハードな仕事で身体を壊した事がありますが、それ以来、身体を壊してまでもしなきゃいけない仕事というのは人生にはないんじゃないかと思うようになりました。’もちろん身体を壊してまでもしなきゃいけない正念場’というものがこの世にあるのも知ってはいるのですが、やっぱりこの年になると身体が優先、と思ってしまうのと、フランスに来て、価値観が大分変わってきたように思います。
・・・ところで、ペンギンって冬眠、するんでしたっけ?
毎回里帰りのたびに楽しみなのは、友人たちとの再会。
そんな中、一年ぶりに再会した皮膚科の先生。
先生の名前は宮元先生。目がくりくりっとして可愛らしく、いつ会ってもエネルギッシュなオーラを発している女性の先生です。先生を動物に例えるとしたらペンギン。診察券にもそのトレードパークのペンギンのイラストが描かれています。
20代前半の頃、私は顔と首を中心にひどいアトピーに見舞われるようになって、さまざまな皮膚科をジプシーのように渡り歩いていたのですが、一向に良くならず、ある日母の知り合いに紹介されたのが宮元先生でした。
一時はステロイド地獄に陥って顔がひどくただれ、家族と顔を合わせることさえ精神的につらい状態だったのですが、その先生の配合してくれる保湿クリームのおかげで、今ではほとんど普通の人と変わりなく生活できるようになりました。
自分にとって恩人とも言えるその先生のクリニックに一年ぶりに訪れ、処方箋を書いてもらいながら、「そういえば先生、一時期診療をお休みしていたと母から聞いたんですけど、病気でもされていたんですか?」と、ふと質問したことから思いがけない話を聞くことになりました。
「そうなの~。実はね、2年くらい前に、急に立て続けに病気になっちゃったの。胃潰瘍から始まって、十二指腸潰瘍になって、不整脈が出ちゃってね、それがほんの1年間の間に起こったの。不整脈なんかね、1日のうちに60回以上出たら異状っていうところを3,000回とか出ちゃって。自分でドクンっていうのがわかるのね。不整脈って、すっごく気持ち悪いの。それでね、ついにドクターストップがかかっちゃったのよ~。おかしいでしょ。医者なのにドクターストップなんて」
ハハハ・・・と、まるで他人事のようにケロッと明るく話している。
「でもね、なんか、私、責任感が強くって、自分が休んじゃったら来てくれてる患者さん達はどうなっちゃうんだろうって思ったら、休めなくて、仕事を続けていたの。でもそんな中、大学の時の同期の友人がね、突然死しちゃったのよ。原因はわからなかったのだけど、私はきっと過労じゃないかと思ってね。私もこのままいったら突然死するかも、って思ったの」
先生の話にすっかり引き込まれている私の横では、オクターヴが疲れと眠たさとで、ベビーカーの中で身体をくねらせながらぐずっている。でも、話の続きがあまりにも気になって、腰が上がらない。
「それでね、私、自分の患者さん10人に相談することにしたの。お医者さんなのに患者さんに相談なんてまたまた笑っちゃうでしょ?でもね、その相談する10人は、全員子供を持つお母さんを選んだの。それで、私は今、こうこうこういう状態なんですけど、休んでもいいでしょうか?ってね、聞いたのよ」
みんな休めって言ったでしょう?
「そうなの。10人中10人がみんな、先生、どうか休んで下さい、って言ったの。それでね、そのうちの一人はね、こんなことを言ってくれたの。それはね、先生、神様から休みなさい、って言われてるんですよ。だから、今は気にしないで休んで下さい。そのかわり、元気になったらまた始めてくれたらいいんですよってね。それを聞いてね、なんだか安心して、休もうって思ったの。それに、よく考えたら、自分の娘達のためにも突然死なんてしたら困るでしょ」
そうですよ。先生、フランスなんかね、お医者さんだって、バカンスに行くからって言って堂々と1ヶ月以上仕事休んじゃうんですよ。当たり前の権利なんですよ。
「あっ!やった!まただ」
えっ、先生、またって何です? ふと先生の視線を追ってオクターヴを見ると、さっきまであんなにぐずっていたのに、いつの間にかベビーカーの中ですやすやと眠り込んでいる。
「なんかね、患者さんが赤ちゃん連れてくるとね、泣いたりぐずったりしていても、大抵、私が話しているうちにみんな眠っちゃうのよね~。催眠術みたいでしょ」
全くとぎれることのない先生の流暢なおしゃべりは確かに催眠効果を発してるみたい。オクターヴが静かになったところで、また落ち着いて話を続ける私達。
「そう、それでね、休むことに決めたのが11月だったからね、ふと思いついて、紙に『冬眠します』って書いて、ペンギンが寝ている絵を添えて、クリニックの表に貼り紙したの。そんなふざけた医者いないよね。そうしたら、インターネットで、誰かに、あそこの医者は冬眠しますって貼り紙をしてるなんて、書かれちゃったみたい。ウフフ。。。それで、ある時なんか、クリニックにやって来た男性がその貼り紙を見つけて、『あれっ、冬眠しますってか。。。でも、それならきっと春頃には目が覚めるだろう』ってつぶやいて、納得して帰っていくのが聞こえて、おかしくってね」
その後、先生は、本当なら身体が全快するのに1年くらい休まなきゃいけないところを、たった1ヶ月休んだだけで回復してしまい、その後の3ヶ月で、今までよりもう少し手狭なビルを見つけて引っ越して、内装工事をして、結局はたった4ヶ月の休業だけで、本当に3月に再開業してしまったのです。
そして現在は、以前よりも診療時間を少なくして、無理のないペースで仕事ができているそうです。もっとも働き者で優しい先生は、診療日以外に、患者さんを見てあげる時もあるそうですが、それでも十分な休息がとれているそうで、全てのいきさつを話し終わった先生の顔をあらためて見ると、本当にイキイキとして見えました。
診察に訪れたつもりが、思いがけず、20分もこんないいお話を聞けて、しかも落語みたいなオチまでついて、診察室を出る時は、まるで、映画を1本見た後のようでした。
私の周りには、身体に危険信号が出ても、大丈夫大丈夫って自分を励ましながら仕事をしている頑張り屋のお友達がたくさんいます。私も20代前半の時に、ハードな仕事で身体を壊した事がありますが、それ以来、身体を壊してまでもしなきゃいけない仕事というのは人生にはないんじゃないかと思うようになりました。’もちろん身体を壊してまでもしなきゃいけない正念場’というものがこの世にあるのも知ってはいるのですが、やっぱりこの年になると身体が優先、と思ってしまうのと、フランスに来て、価値観が大分変わってきたように思います。
・・・ところで、ペンギンって冬眠、するんでしたっけ?
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by DegorgeRie
| 2006-12-29 11:15