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ムクが教えてくれたこと

何度見ても泣けてしまう映画や本、というのがみなさんにもきっとあると思います。
私が最近どうしても泣けてしょうがなかったのは、友人のブログに綴られた文章でした。今日は、友人の了解を得て、その文章を紹介させていただきます。

その友人ももべえさんとの出会いは4年前。大きなトランク1つとアコーデオンを担いで初めてパリに降り立った翌日でした。外国で住むという経験が全く初めてで、期待と同じくらいの不安を抱えていた私に、生活に役立つアドバイスをたくさん与えてくれた彼女。でも、彼女と話ができたのはたった一度、その時だけでした。
そんな彼女がつい先日、何年かぶりにパリに遊びにやって来ることになりました。私が彼女と再会した時の心境はおそらく、何十年ぶりかに恩師に出会った時の心境に似ていたと思います。右も左もわからずパリの中心街で戸惑う4年前の私と、結婚して一児の母になり、右往左往しながらも何とかパリで暮らしている現在の私。再会前に彼女からもらったメールの中にも「4年前の私と今の私が同一人物というのがピンとこない」と書かれてありました。
手提げ袋いっぱいに日本の食べ物をお土産に持って来てくれた優しい彼女は、別れ際に、最近ひそかに書いているブログのことを話してくれました。彼女は今までの人生でいくつもの不思議体験を持つ人なのですが、今回紹介する愛犬ムクとの思い出話もそのひとつ。
「少しでも多くの人がムクに思いを馳せてくれることがせめてもの償いというか、鎮魂になるような気がします」という彼女の思いがたくさんの人の心に触れますように。。。

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ムクのこと

これは私にとっては辛い話なのだが、
愛犬への懺悔と鎮魂のためにも書くことにする。

ムクは私が中学2年のときに我が家にやってきた。
買い物に出かけた両親と妹が、外出先でもらってきたのだ。
聞くと、デパートの入り口近くで、何かの商いをしていたおじさんが、
生まれて間もない子犬をもらってくれる人を探していたらしい。
そこを通りかかった妹がムクに一目ぼれをしてしまい、
その場を動かなかったので、両親が根負けしてもらって帰ったということだった。
ムクは雑種だったけれど、子犬のころはマンガに出てくるムク犬そのままの愛らしさで、
見た目のままムクと名づけ、我が家の一員に加わった。

学校からの帰り道、坂を上がって我が家が見えると、
ムクが塀につかまり立ちをして顔を覗かせ、しっぽを大きく振りながら、
わん!(お帰り!)と吠えて私を出迎えてくれた。

夕食の時間になると、ムクを家の中に入れて一緒に家族団らんの時間を過ごした。
冬の間はストーブの前がお気に入りで、私もムクに寄り添いながら寝転んで暖をとった。

ある日学校でいやなことがあって、ムクに「今日ね、こんないやなことがあってね」と
話しかけながら、ムクの顔をふと見ると、眉をよせるような悲しい顔をしていたので、
びっくりしたことがある。人間の話がわかるのだろうか・・・と不思議な気がした。

私が大学に進学してすぐ、家に大きな問題が起こりそれに併せて引っ越をした。
家族同然に可愛がっていた愛犬のムクも、当然ながら引越し先に連れていったのだが、以前のムクとは違い、落ち着きなくさかんに吠えるようになった。
家の外に出たがって夜間や早朝に吠えるので、近所から苦情が来るようになったりして、本当はいけないことなのだが、人が寝静まっている時間に鎖をはずして散歩に出してやった。
正直、家族全員がムクのことにかまっていられる精神状態ではなかったし、
おそらくムクも家族のピリピリした雰囲気を察して、落ち着きをなくしていたのだろう。
私達に向かって唸るなど、顔つきも以前よりきつくなったように感じた。

最初のうちは、外に出してもしばらくすると家に戻ってきていたのだが、
いつの間にか帰らなくなってしまった。周辺をひとしきり探したが、
姿が見当たらないので捜索はあきらめた。
ムクにはとてもかわいそうなことだが、ムクが見つかるまで探し出す気力が、
当時の私達にはなかった。だからムクは自分から出て行ったのだ、と
無理やり納得するしかなかった。
私が大学に入った年のことだ。

その後、実は一度、ムクを連れて帰るチャンスがあった。
ムクが姿を消して半年くらいたったころだと思う。
ムクに良く似た犬が、何匹かの野良犬といっしょにいるのを大学の構内で見かけた。
「あれ?!」
と私が気付くや否や、その犬も自転車に乗っていた私に気付き、走って近寄ってきた。
「ムクだ!」
しかし、こともあろうに、私は知らんふりをしてしまったのだ。
自意識過剰だった私は、友達の手前、ムクに声をかけるのが
気恥ずかしかったのもあるし、昔可愛がっていたムクとは
別のムクになってしまったようで、ちょっと怖かった。
ムクはしばらく私の自転車と併走していたけれど、
私が知らん顔をするので、途中でぴたっと止まってついてこなくなった。

私はどうしよう、どうしようと心の中で繰り返しながら、
100mほどそのまま走ったのだが、すぐに激しい自責の念にかられた。
「なんてひどいことをしたんだ!ばか!早く連れて帰らないと!」
くるっと向きを変えて、元の場所まで戻り、ムクの名を呼んだ。
「ムク!!おいで、帰るよ!!」
何度呼んでも、ムクは私を一度も見ず、そのまま走り去ってしまった。
私は、このときムクから愛想をつかされ、完全に見限られた。
ムクから飼い主失格の烙印を押されたのだ。
もうムクは二度と戻ってこないと、思った。

それから3年経った大学卒業間近の早春の朝、私は洗濯をしていた。
とても天気のよい日だった。
青い空にぽっかりと浮かんだ綿あめのような白い雲を眺めながら洗濯ものを
干していると、なぜか無性に、ムクのことが思い出されて泣けてきた。
今まで封印していたムクへの思いが、一気に噴き出したようだった。
どうしているだろう、誰か親切な人に拾われていればいいけど、
本当にかわいそうなことをしたね、謝っても謝りきれない、
ごめんね、ごめんね・・・。

ひとしきり泣いて落ち着いた後、図書館に行こうと思い立った。
その日図書館に行く特別な用事はなかったのだが、
なんとなく図書館の中をぶらつきたくなったのだ。

自転車で大学に向かい、図書館に近づくと、
芝生の上に一匹の犬がいるのが目に入った。

私の心臓が早鐘のように鳴り出した。
うそだ、うそだ、そんなまさか。
犬に近づき、名前を呼んでみる。

「・・・ムク?」

その犬は、ゆっくり尻尾を振りながら、私に歩み寄ってきた。
ムクだった。
このときの驚きをどう表現すればいいだろうか。

「ムク・・・!!何でここに・・・どう・・して・・?」

これは現実のことなのだろうか、目の前のムクは本当のムクなのだろうか。
夢を見ているような気持ちで、ムクの頭や身体を撫でた。
懐かしいムクの毛並みと手触り。
私達家族と一緒に暮らしていたころの、穏やかな表情のムクがそこにいた。
昔つけていた首輪とは違う首輪のようだ。
誰か親切な人が飼ってくれているのだろうか。
3年ぶりのムクとの再会に感激して打ち震えたというよりは、
想像だにしていなかった出来事に圧倒されて声もなかった。

「・・・どこにいたの?どうしてた?元気だった?会いに来てくれたの?」

私の問いかけに、ムクは恥ずかしそうに下を向いて応えた。

「ちょっと待っててよ。牛乳買ってくるからね。動いたらだめよ!」

言い残して、私は自動販売機に走った。
牛乳を買いながら、私の頭はムクをどうやって飼うかその算段で、
フル回転し始めた。
このころ、家族は他県へ移り、私はそのまま大学に通うため地元に残って
マンションでひとり暮らしをしていたのだ。マンションで犬は飼えない。
親もマンション暮らし。
どうしたらいい?どうしたら・・・・?

考えながら急いで元の場所に戻った。

ムクがいない。さっきまでそこにいたムクが。

「ムク?!」

ムクの姿は忽然と消えていた。
最初からそこにはいなかったかのように。
周囲を探したが、気配さえない。
私は、なんとなくこれ以上ムクを追いかけてはいけないような気がした。

賢いムクのことだから、私達の事情を察しつつ、
「元気だよ。だから心配しないで」
とだけ伝えに来て、今いるべき場所に帰って行ったのだろうか?
ひょっとすると、別次元の存在となって、私の目の前に現れたのだろうか。

後日、家族にこの話をした。
そして家族全員で泣いた。

後になって、犬や猫などの動物は、飼われていた家の災厄を背負って
出て行くことがあると聞いた。
ムクは自ら犠牲になって、私達家族の出直しに力を貸してくれたのだと思う。
感謝、謝罪、鎮魂・・・ムクに、どんな言葉や思いを、いくら届けても足りない。

ムクがいなくなって20年近くが経ち、私達は犬を飼い始めた。
私は、この子をムクの姿に重ねて世話をしている。
犬の寿命は人間より短いから、順当に行けば私はこの子の最期を
看取ることになるだろう。
この子の命が尽きるその日まで一緒にいてやりたい、
死ぬまでこの子が幸せでいられますように、と願わずにはいられない。
誰よりも家族思いだったムクの分まで。
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by DegorgeRie | 2007-01-22 23:48 | Comments(9)