2007年 03月 07日 ( 1 )

アパート探しという職業

パリの冬は長い。毎年、春が来ると同時にパリの人がすることは、表に出てカフェのテラスでビールを飲むことと、公園で日光浴すること。その姿はまるで甘いものにむらがるアリの群れ。パリにはこんなに人が住んでいるのか、と思わせられるほどたくさんの人々がどこからともなくやってきて、カフェのテラスをびっちりと占領する。もちろん、自分もその仲間の一人だ。
今日の天気はまさに、「テラスでビール」日和。お日さまはどこまでもぽかぽかと暖かく、今年初めて「ああ、春が来たなあ」と感じさせる天気である。

4月1日に引越しが決まった。今度のアパートは、パリの東側に当たる20区で、今現在住んでいる17区からは少し遠い。実はこのアパートに引っ越すことが決まるまでには、実に2年以上の歳月を費やした。お腹に赤ちゃんを抱えていた頃からである。
アパートを買うならいざ知らず、たかが借りるだけなのに2年というのはおかしい話である。本音を言うと随分前からアパート探しに心底疲れ果てていて、私達の予算内では気に入るアパートはもう一生見つからないと思うくらいだった。毎日インターネットで寄せられてくる膨大な広告を選別し、木曜日の朝は早起きして、個人の住宅情報誌を買いにキオスクへ走り、情報をくまなくチェック。数えてはいないがおそらく何千という広告を目にし、100件近くの物件を見学したはずだ。このおかげで私は住宅情報のチェックが異常に早くなった。その物件がいいか悪いか即座に判断できる。「アパート探し」という肩書きを名刺に書きたいくらいである。
ではなぜ、アパート探しにこれほどまでに労力がいるのか。それもこれもみんな数年前からの家賃の異常な高騰が原因である。そのおかげで、パリにはたくさんの住宅難民がいて、そのことは現在、パリ市の深刻な問題にもなっている。こんなご時世だから、手頃な値段のコンディションのいい物件には、当然たくさんの志願者が殺到する。そして選ばれるのは、そのうち最も給料の額が高い家庭、というような具合である。

日本で賃貸アパートを借りる時、普通は、一番先にそのアパートを借りたいと申し込みをした人に借りる権利がある。しかし、パリではそうではない。まず書類である。
物件を気に入ったら、不動産屋あるいは大家に書類を提出する。その書類の量がハンパではない。住む人の身分証明書、会社で働いている人なら雇用契約書、一番最近の給料明細書、前年度の税金支払い証明書、今住んでいるアパートの家賃支払い証明書3か月分、さらに、保証人がいる場合は、保証人となる人の書類、などなどである。
それらの書類を物件見学と同時に即座に提出できるような状態でなければ、もはや勝ち目はないも同然である。もちろん、大家や不動産屋は入居希望者の人柄なども当然見るわけなので、できるだけ好印象を与えようとこちらも努力する。なんだか、日本の私立幼稚園、小学校のお受験騒動に似ているような気がしないでもない。

そんな中、私達が今回気に入った物件に巡り会えて、大家さんに選んでもらえたというのは、大げさではなく宝くじに当たったような気分である。
今度の家は、3階建ての低層アパートの地上階。部屋は2部屋なので3人家族には決して広いとは言えないが、パリのアパートでは珍しいプライベートな庭付きである。盆栽や庭いじりが大好きなフレデリックがずっとこだわっていた庭付きアパート。その彼が意地と執念でものにした物件と言えるかもしれない。

フレデリックと知り合ってから3年近く住んだこの17区には、いつも子供にパンの切れ端をサービスしてくれる顔なじみのパン屋さん、豚肉をできるだけ薄くスライスして下さい、と気兼ねなく頼めるお肉屋さん(フランスでは肉はみんな塊で売っているため)もある。同じ建物内に住むお隣さんと別れるのも寂しい。
でも2年間のアパート探しの末にたどり着いたアパートなのだから、今度はきっと20区と縁があるのだろう。私がフランスに来て初めの半年間住んだのもこの20区だ。

「引越しはパワーだ」と吉本ばななは小説キッチンの書き出しで書いていたと思うが、まさにこれからそのパワーが必要とされるとき。さあ、新しい生活のスタートだ。
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by DegorgeRie | 2007-03-07 21:01 | Comments(19)

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