2006年 10月 02日 ( 1 )

屋根の上のアコーデオン弾き

c0085370_93921.jpg私には、少ないながらも気のおけないフランス人の友達が何人かいる。
ギタリストのローランもその一人。
もう3年も前に私が地下鉄で演奏していた時に偶然通りかかって「一緒に練習しない?」って声をかけてきてくれたのが彼だった。最初はバイオリンとギターとアコーデオンという編成で練習を始めたのだが、いつの間にかメンバーが変わって、最近はギタリスト2人と私。週末になるとお互いの家に集まって練習したりしている。
今日は2ヶ月ぶりにローラン宅で音あわせ。フランス人のバカンスはたいてい1ヶ月と長い上、この夏のメンバーのバカンス時期がものの見事にずれてしまったため、近頃なかなかみんなの顔が揃わなかった。
アパートの入口のドアを押して中庭に入り空を見上げると、ローランと彼の恋人、ノガが最上階の窓からこちらに向って手を振っていた。
「今降りてくからちょっと待って!」
窓から叫んで30秒もしないうちにローランが少し息をはずませて1階まで降りてきた。エレベーター無しの最上階6階までアコーデオンをかついで登るのはいつもローランの役目。その足取りが今日はなぜか妙に弾んでいる。
階段を軽やかに登りながら彼の口から思いがけない言葉が飛び出した。
「Rieは屋根に登ったことある?今日は屋根の上で練習しようよ」
えーっと、屋根???私の聞き間違いじゃないよね。屋根の上って今言った?
部屋の前に到着すると、ノガともうひとりのギタリスト、ブノワが待っていた。
すかさず「そんなのやめなよ。危ないでしょ」と、ノガ。
だいたい屋根の上にどうやって登るの?
「はしごがあるから平気」
だって楽器かついでなんて登れないでしょ。
「大丈夫大丈夫。心配しないで。とにかく、超気持ちがいいんだから~」
ローランは私の中では、ラテン気質そのものという感じで、頭より身体が先に動く、根っからの楽天家。
それに対して、ブノワは、ラテン気質ではあるけれど、どちらかと言えば筋道を立てて冷静に物事を熟考する慎重派タイプ。
その彼も「俺も屋根の上はちょっと怖いなあ。楽器が弾けるようなリラックスした状態でいられるかどうか」と少し心配顔。
でもローランはかなりのハイテンションで、もう完全に"屋根の上で練習モード"になってしまってる。
お茶を飲んで、一息ついた後、「じゃあ屋根の上行こう」とさくさくと準備を始め出したローラン。
演奏できるかどうかはわからないけど、前から一度屋根の上に登ってみたいと思っていた私。好奇心がむくむく湧いて来て、とりあえず様子を見に登ってみよう、ということに。

階段の踊り場の天井には屋根に通じる四角い窓があり、普段は木の板でふさがれているのだけどその板をぱかっと開けて、そこにはしごをかける。
私たちが階段を立てかけてさあ、登ろうという時に、ローランと同じ階に住むお向かいのおじいちゃんが階段を下からゆっくり登ってくる。外出から帰ってきたようだ。ローランがすかさず、「これから屋根の上で練習だよ。いいでしょ」と言うと目を丸くして一瞬何のことか理解できなかった様子だったけど、笑って、私達が無事登っていくのを見守ってくれる。屋根の上には思ったより簡単にほんの数秒で無事到着。
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そして、そこで見たもの。初めて登ったパリの屋根の上。
なんて気持ちいいんだろう!!
それは、想像していた以上のものだった。
10月の太陽は優しく微笑み、力強い風は時折ブルーグレーの屋根の間を駆けていく。
エッフェル塔が遠くの方に、お土産屋さんで見かける小さな置物のように可愛らしくぴょこんと頭を出している。
屋根の傾斜は思ったよりも緩やかだし、スペースも20畳分くらい(パリの屋根なのに畳で勘定するのもヘンだけど)あるだろうか。ちょっとしたテラス風。思ったより広々しているから下の道路が見えることもなく、恐怖心はほとんど感じない。これなら、ちょっとしたカフェが開けちゃうかもと非現実的な妄想が沸いてくる。屋根の上のカフェ。

ブノワもこの思いがけない新しい練習室にご満悦な様子。でも「危険な感覚がしないのがかえって危険。屋根の上ということをつい忘れてしまうと、普通に歩いていって落ちてしまうかもしれないよ。気をつけて」と能天気な私達にきちんとアドバイスすることも忘れない。それはその通り、ちょっとした心のゆるみが大惨事になりかねないと、肝に命じる。
そして、早速練習開始。でも楽譜を置こうとするとすぐに風がぴゅーっとやってきて飛ばされそうになる。必然的に楽譜は片付けなければならなくなる。でもこうなってみると、これはこれで曲を覚えるいいきっかけになる。
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(左:ローランと私。右:ブノワとローラン)

映画"アメリ"の曲を1曲弾き終わったところで、どこからか「ブラボー」という声。振り返ると道をはさんだ向かい側の最上階の住人が窓から顔を出している。演奏を聴いてくれるのは屋根の上の住人であるハトくらいと思っていたのでちょっとビックリ。でも嬉しくて3人で手を振って応える。
c0085370_8513581.jpg屋根の上の練習室で発見したこと。それは、曲に対してとても集中できるということ。部屋で練習する時のようにパソコンやビデオなど情報機器がまったく何もないから注意が散漫になることがない。それに、野外で練習する時は何かといろいろな人が話しかけてきて集中できないことが多いけど、ここならまずそんな心配はない。
フランスのシャンソンに"パリの屋根の下"っていう曲はあるけど、"パリの屋根の上"っていう曲がないのは残念。3人でこういうタイトルの曲をオリジナルで書いたらどうだろう。
屋根の上で練習、なんてもちろん堂々とできる行為じゃない。でも、天気がよくて気持ちのいい日は、しばらくこの練習スタイルがやみつきになりそうだ。
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(練習しているうちにだんだん日が暮れて太陽が落ちてゆくのが見える。これは夜7時くらいの風景。左の方にエッフェル塔が)
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by DegorgeRie | 2006-10-02 11:23 | Comments(23)

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