屋根の上のアコーデオン弾き

c0085370_93921.jpg私には、少ないながらも気のおけないフランス人の友達が何人かいる。
ギタリストのローランもその一人。
もう3年も前に私が地下鉄で演奏していた時に偶然通りかかって「一緒に練習しない?」って声をかけてきてくれたのが彼だった。最初はバイオリンとギターとアコーデオンという編成で練習を始めたのだが、いつの間にかメンバーが変わって、最近はギタリスト2人と私。週末になるとお互いの家に集まって練習したりしている。
今日は2ヶ月ぶりにローラン宅で音あわせ。フランス人のバカンスはたいてい1ヶ月と長い上、この夏のメンバーのバカンス時期がものの見事にずれてしまったため、近頃なかなかみんなの顔が揃わなかった。
アパートの入口のドアを押して中庭に入り空を見上げると、ローランと彼の恋人、ノガが最上階の窓からこちらに向って手を振っていた。
「今降りてくからちょっと待って!」
窓から叫んで30秒もしないうちにローランが少し息をはずませて1階まで降りてきた。エレベーター無しの最上階6階までアコーデオンをかついで登るのはいつもローランの役目。その足取りが今日はなぜか妙に弾んでいる。
階段を軽やかに登りながら彼の口から思いがけない言葉が飛び出した。
「Rieは屋根に登ったことある?今日は屋根の上で練習しようよ」
えーっと、屋根???私の聞き間違いじゃないよね。屋根の上って今言った?
部屋の前に到着すると、ノガともうひとりのギタリスト、ブノワが待っていた。
すかさず「そんなのやめなよ。危ないでしょ」と、ノガ。
だいたい屋根の上にどうやって登るの?
「はしごがあるから平気」
だって楽器かついでなんて登れないでしょ。
「大丈夫大丈夫。心配しないで。とにかく、超気持ちがいいんだから~」
ローランは私の中では、ラテン気質そのものという感じで、頭より身体が先に動く、根っからの楽天家。
それに対して、ブノワは、ラテン気質ではあるけれど、どちらかと言えば筋道を立てて冷静に物事を熟考する慎重派タイプ。
その彼も「俺も屋根の上はちょっと怖いなあ。楽器が弾けるようなリラックスした状態でいられるかどうか」と少し心配顔。
でもローランはかなりのハイテンションで、もう完全に"屋根の上で練習モード"になってしまってる。
お茶を飲んで、一息ついた後、「じゃあ屋根の上行こう」とさくさくと準備を始め出したローラン。
演奏できるかどうかはわからないけど、前から一度屋根の上に登ってみたいと思っていた私。好奇心がむくむく湧いて来て、とりあえず様子を見に登ってみよう、ということに。

階段の踊り場の天井には屋根に通じる四角い窓があり、普段は木の板でふさがれているのだけどその板をぱかっと開けて、そこにはしごをかける。
私たちが階段を立てかけてさあ、登ろうという時に、ローランと同じ階に住むお向かいのおじいちゃんが階段を下からゆっくり登ってくる。外出から帰ってきたようだ。ローランがすかさず、「これから屋根の上で練習だよ。いいでしょ」と言うと目を丸くして一瞬何のことか理解できなかった様子だったけど、笑って、私達が無事登っていくのを見守ってくれる。屋根の上には思ったより簡単にほんの数秒で無事到着。
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そして、そこで見たもの。初めて登ったパリの屋根の上。
なんて気持ちいいんだろう!!
それは、想像していた以上のものだった。
10月の太陽は優しく微笑み、力強い風は時折ブルーグレーの屋根の間を駆けていく。
エッフェル塔が遠くの方に、お土産屋さんで見かける小さな置物のように可愛らしくぴょこんと頭を出している。
屋根の傾斜は思ったよりも緩やかだし、スペースも20畳分くらい(パリの屋根なのに畳で勘定するのもヘンだけど)あるだろうか。ちょっとしたテラス風。思ったより広々しているから下の道路が見えることもなく、恐怖心はほとんど感じない。これなら、ちょっとしたカフェが開けちゃうかもと非現実的な妄想が沸いてくる。屋根の上のカフェ。

ブノワもこの思いがけない新しい練習室にご満悦な様子。でも「危険な感覚がしないのがかえって危険。屋根の上ということをつい忘れてしまうと、普通に歩いていって落ちてしまうかもしれないよ。気をつけて」と能天気な私達にきちんとアドバイスすることも忘れない。それはその通り、ちょっとした心のゆるみが大惨事になりかねないと、肝に命じる。
そして、早速練習開始。でも楽譜を置こうとするとすぐに風がぴゅーっとやってきて飛ばされそうになる。必然的に楽譜は片付けなければならなくなる。でもこうなってみると、これはこれで曲を覚えるいいきっかけになる。
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(左:ローランと私。右:ブノワとローラン)

映画"アメリ"の曲を1曲弾き終わったところで、どこからか「ブラボー」という声。振り返ると道をはさんだ向かい側の最上階の住人が窓から顔を出している。演奏を聴いてくれるのは屋根の上の住人であるハトくらいと思っていたのでちょっとビックリ。でも嬉しくて3人で手を振って応える。
c0085370_8513581.jpg屋根の上の練習室で発見したこと。それは、曲に対してとても集中できるということ。部屋で練習する時のようにパソコンやビデオなど情報機器がまったく何もないから注意が散漫になることがない。それに、野外で練習する時は何かといろいろな人が話しかけてきて集中できないことが多いけど、ここならまずそんな心配はない。
フランスのシャンソンに"パリの屋根の下"っていう曲はあるけど、"パリの屋根の上"っていう曲がないのは残念。3人でこういうタイトルの曲をオリジナルで書いたらどうだろう。
屋根の上で練習、なんてもちろん堂々とできる行為じゃない。でも、天気がよくて気持ちのいい日は、しばらくこの練習スタイルがやみつきになりそうだ。
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(練習しているうちにだんだん日が暮れて太陽が落ちてゆくのが見える。これは夜7時くらいの風景。左の方にエッフェル塔が)
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Commented by saheizi-inokori at 2006-10-09 10:41
お帰りなさい!Chikaちゃん元気だった?
帰るや否や大冒険、いかにも「屋根の上のアコーデオン弾き」ってパリらしいね。
映画でも屋根の上からのショットいくつか見たような気がします。
ただ、私は高所恐怖症、この写真を見て入るだけでお尻がムズムズしてきます。
Commented by Rie at 2006-10-10 00:38 x
*saheizi-inokoriさん
コメントありがとうございます!ご報告遅れましたー。Chikaちゃんとーっても元気でした。NY旅行から帰って来てからもう大分経ってしまいましたが、そのことも近々書きたいと思います。
それから近々日本に1ヶ月ほど里帰りしまーす。予定がはっきり決まったらまたお知らせしますね!
Commented by hanamaki3 at 2006-10-11 12:12
お久しぶりです~
素敵ですね、「パリの屋根の上」での演奏だなんて!
とっても気持ちがよさそう。
写真を拡大して見せてもらいましたけど、パリの夕焼けがまた素晴らしい・・・・手賀沼(という湖が我が家の近くにあります)の夕日も綺麗だけれど、でもやっぱりパリとは違うような気が。夕日までパリはパリですね!なんてね(笑)。
で、ちょっと教えていただきたいのですが、Rieさんのような写真のupの仕方(拡大できるようにするには)はどうしたらいいのでしょうか?
お暇な時にでもお願いします~
Commented by DegorgeRie at 2006-10-11 21:13
*hanamakiさん
ご無沙汰してます~。1ヶ月も更新があいてしまったのに、来てくれてありがとうございます。みなさん毎日更新されてて本当にスゴイと思います。私はすでに3日坊主。。。
手賀沼の夕日もいつか見てみたいです。キレイでしょうね~。パリの夕日はとてもキレイなんですけど、なぜか日本の夕日みたいにノスタルジーはあまり感じません。それは私の記憶と結びついているからでしょうか。
写真のアップは自分で適当にやっているだけなんです。本当は携帯で写真を手軽に撮って使えたらいいのですが、あいにくカメラ付きの携帯じゃないんです。それで、高性能のデジタルカメラの高品質モードで撮った画像を、サイズを40%くらいに縮小してアップしてるんです。でもこれだと画像の容量がものすごく大きなってしまってすぐにいっぱいいっぱいになりそうなのでもっと品質を落として撮らなければならないのかもと思っているんです。
hanamakiさんはどうされてるのか逆に知りたいです~。
Commented by hanamaki3 at 2006-10-11 22:50
Rieさん、お返事をありがとうございます~
写真のupは、RieさんのはPCの画面いっぱいに拡大できるので、それが不思議だなぁ~とも思ったんです。
(私は普段は480×360ピクセルに縮小してupしているんですよね。携帯写真だと270×360ピクセルかな)
あ、それから、画像容量はネームカードを作るといいですよ。
1GBまでOK~になります。
Commented by DegorgeRie at 2006-10-12 18:05
*hanamakiさん
ありがとうございます。早速ネームカードを作りました。でもまだ画面に反映されてないみたい。時間がかかるのかな。私は写真の処理やアップにすごく時間がかかるので、もっと簡単にアップできる方法を考えたいと思います。でも、私の載せた写真が拡大して見れるのは知らなかったので、教えてくれてありがとうございました!
あっ!それから近々日本に帰国するんですが、monoprixのソムリエナイフ、お土産に買っていこうと思っています!こちらもいい情報をありがとうございました。
Commented by raku at 2006-10-13 08:25 x
おーーすごいすてき!
やってみたい。やってみたい。
あのパリ独特の空気のにおいがするんだろうなあ。

ちなみにうちの近くにも手賀沼があります(笑)
ぜひ、帰国の際にはこちらにも。
みんなでセッションしよう!
Commented by DegorgeRie at 2006-10-13 12:18
*rakuちゃん
今度パリに来た時はぜひ参加してー。
えっ、rakuちゃんのとhanamakiさんの手賀沼って違う場所なのかな?そんなにいろんなところにあるんだ。手賀沼っていう名前の沼は。長寿庵っていうお蕎麦屋さんがいっぱいあるのと同じくらいポピュラー?(そんなことはないか)
セッションしたーい。でも問題は楽器持って行くことなの。帰りは一人旅だから子供連れてスーツケースとアコーデオンは相当大荷物になっちゃって今回は無理そう。来年は何とか持って来てやりたいなあ。
Commented by hanamaki3 at 2006-10-13 19:24
>monoprixのソムリエナイフ、お土産に買っていこうと思っています!こちらもいい情報をありがとうございました。

 あ、いえいえ、どういたしましてぇ。恥ずかしぃ!
それから、Rieさん、手賀沼はたぶん一つだと・・・・

横から失礼します~
rakuさん、初めまして!
もしかしたらK市にお住まいでしょうか?
それとも、私と同じA市・・・・?
Commented by Chika at 2006-10-15 01:12 x
Rieちゃん
久しぶり~。私もsaheiziさんと同じ高所恐怖症なの。でも気持ちよさそう~。なんだかバタバタしていて、最近ようやく落ち着いてきたところ。
NYでは本当、楽しかったね~。今日は土曜日、寝坊してブランチをRieちゃんにもらったお揃いのかわいいカップでコーヒーを楽しんだところです。Jerryはフレデリックの影響でスコッチファンになってしまいました(笑)。仕事が終わってから、ゆっくり寛げるし、良く眠れるらしい。あれから何度かJerryからフレデリックに電話をしてみたそうなんだけど、うまく繋がらなかったよう。

saheiziさま
お陰さまで元気にしております!!Rieちゃんが日本に帰るそうで、うらやましいです。なんとか仕事も決まって、アルバイトですが8月1日から始めています。英語のPCに英語のメール、電話、電話のメモ、そして業界についての知識がないという3重苦ですが、頑張ろうと思っています。
またメールを送らせていただきます。
Commented by Rie at 2006-10-15 07:04 x
*Chikaちゃん
久しぶりだね~。NYほんと楽しかったよー。結婚式でブーケを作ってくれたゆきちゃんが8月に行った時は天気が悪くて寒かったって言ってたけど、私たちは本当にラッキーだったんだね。
Jerryから電話何度かもらってたんだ!どうしてつながらなかったんだろう。フレデリックに聞いてみるね。スコッチファンになったって知ったらきっとすっごく喜んじゃうよ。
CDに写真を入れて送ったのがもうそろそろ届く頃だと思います。2人で見てみてね。オクターヴの写真が多いけど。ひとつ心残りなのはChikaちゃんの素敵な浴衣姿をちゃんと写真に撮っておくの忘れちゃったこと。美味しい和食に心が奪われてしまって。。。
Commented by saheizi-inokori at 2006-10-15 10:01
Chikaちゃん、こんつは。
日本はいよいよ紅葉です。来週は成田君たちとソウル、ナニを着ていくか難しいなあ。翌週は長野で和佳チャンにあえるし、その次は東北の温泉、毎週忙しいですよ。
Commented by raku at 2006-10-15 12:01 x
rieさん、はじめましてのhanamaki3さん、

大笑い!
そうです。
手賀沼は一つです。
昨日は沼沿いをほぼ25年ぶりくらい(!)にジョギングしてきました。きもちよかったですよ。

わたしはK市です。ストリームバレーと16号の間にすんでます(わかるかしら)

りえちゃん帰ってきたら、みんなでセッションしましょう。うちには2台ありますよアコーディオン(むふ)
Commented by chika at 2006-10-15 12:43 x
Rieちゃん
早速コメント嬉しいな。Jerryはあと、たこ焼きファンになったよ!昨日も食べたところ。今は週に2回夜、仕事が終わってから彼はNYUに行ってコンストラクションのマネイジメントの授業を受けているの。サティフィケイトがもらえるコースなんだけど、1年ぐらいかかりそう。でも知識は人生を助けてくれるものだって、ほんと思う。大人になってから改めて大学に行くほうが、ずっと為になるもんなんだなって思う。
オクターヴちゃんのこと、ほんと時々すっごい会いたくなっちゃう。あのあどけない可愛い目で下から見つめられるとほんとね。フレデリックが作品みて喜んでいるのが目に浮かぶよ。

Saheiziさま
成田さんたちとソウルなんて、いいですね~!!!
私、こんなに日本から近いのに一度も行ったことがなく、いつか成田さんに案内してもらいたいです!ソウル、寒そうですね。温泉、いいですね~。NYにもあったらいいのに。温泉と日本料理。和佳さん、成田さんによろしくお伝えくださいませ。
Commented by Rie at 2006-10-16 07:36 x
*hanamakiさん、rakuちゃん
ボケボケでほんとにごめんなさい。「手賀沼は長寿庵とは違う」というのを、くっきり心に刻んでおきたいと思います。そして今となっては手賀沼をいつかこの目で見るまでは死ねない心境です。

*rakuちゃん
私のアコーデオン、実はボタン式なのー。rakuちゃんはまさかボタン式も持ってるってことはないでしょう?

*Chikaちゃん
なんとたこ焼きファンにもなっていたとは!すっかり日本食が気に入ったみたいで良かったねー。次回もし行った時のジャパニーズナイト第2弾の用意はChikaちゃんに全部まかせるよ!
仕事終わってから今度は勉強なんてえらいよね。彼はChikaちゃんに似てとっても努力家だよね。
オクターヴは忙しくて構ってあげられない時ほど、いたずらしに来るんだよね。構って欲しいもんだから。Chikaちゃんの出勤前の支度の最中もしょっちゅう邪魔しに行ってたよね。Chikaちゃんがオクターヴのこと英語で話す時も、「Octave-chan is・・・」って、必ずちゃん付けにしてたのが可愛くて未だに耳から離れません。
Commented by coco_juri at 2006-10-16 16:36
良い人達に囲まれて人生送ってるのぉ〜
ほのぼのとして羨ましいぞぉ。
東京でケッ!と毒づきながら暮らしてる、
私はこの文章で泣きそうだよ〜。

Commented by Rie at 2006-10-16 19:42 x
*coco_juriさん
日本でもパリでもほんとに自分は良い人達に囲まれていると思います。それが人生で最高の幸せだなあ。
東京は時間の流れが違うから、ほのぼのとはなかなかできないのかなあ。
Commented by Kyoko at 2006-10-19 11:59 x
リエさんお久しぶり!!
練馬支部/恭子です。
すてきなブログ始めたのね、これからパリ通信楽しみにしております。
とっても素敵な暮らしぶりが伺えてうれしいな。
映画みたい!
Commented by Rie at 2006-10-22 01:09 x
*Kyokoちゃん
コメントありがとう。おととい日本に無事帰ってきました!
お知らせ送ったかなと思ったんだけどもしかして届いてないかも?
11月25日まで滞在してますので会えるといいなー。
Commented by ??? at 2006-12-22 19:47 x
Hi, nice site :)
Commented by saheizi-inokori at 2006-12-29 11:27
久しぶりに読み返したらますますいい記事だなあ。
お尻むずむずは相変わらずですが。
Commented by Rie at 2006-12-31 08:52 x
*saheiziさん
パリの屋根の上、一度登ってみませんか?荒療治かもしれませんが、いきなり高所恐怖症治ったりして。。。
Commented by love :) at 2007-01-18 12:02 x
Thats a very interesting article
by DegorgeRie | 2006-10-02 11:23 | Comments(23)

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